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オシロスコープ 精度
- 2025/6/30 -

オシロスコープ 精度

はじめに

オシロスコープは、電圧や波形をリアルタイムで観測できる電子計測器であり、回路開発や製品評価、トラブルシューティングなど幅広い場面で使用されている。中でも「精度」は、観測結果の信頼性に直結する重要な要素である。本記事では、オシロスコープの精度に関わる基本的な考え方と、その評価指標、さらに高精度が求められる用途や製品選定時の注意点について解説する。

オシロスコープにおける精度とは

一般的に精度という言葉は、測定値が真の値にどれだけ近いかを表すが、オシロスコープでは単純な数値精度に加え、アナログ波形をどれだけ忠実に再現できるかが重要である。そのため、オシロスコープの精度は複数の要素に分けて評価される。

垂直軸精度(電圧測定精度)
横軸精度(時間軸の精度)
分解能(AD変換精度)
帯域特性(周波数応答)
ノイズ性能
ジッタ性能(時間軸揺らぎ)

これらの性能は、測定する信号の種類や使用環境によって大きく影響を受ける。

垂直軸精度

垂直軸の精度とは、入力された電圧がどれだけ正確にオシロスコープ上で表示されるかを示す。通常はフルスケールに対するパーセンテージで表されることが多く、代表的な仕様記述は「±3%(フルスケール)」のように記載される。これは、5Vフルスケールの設定であれば±0.15Vの誤差範囲内に測定値が収まることを意味する。

垂直軸精度はプローブとの組み合わせや温度変化、補正調整の有無によっても変動するため、正確な測定が求められる場合は定期的な校正や補正が重要である。

AD変換分解能と実効ビット数

近年注目されているのが、AD変換分解能の向上である。従来のオシロスコープは8ビット分解能が一般的だったが、現在では10ビット、12ビット、あるいはそれ以上の分解能を持つ高分解能オシロスコープが登場している。例えば12ビットでは、4096段階の電圧分解が可能になり、微小な電圧変動やノイズの観測に威力を発揮する。

ただし、スペック上のビット数が高くても、実際にノイズや歪みの影響で有効に使えるビット数はこれより低い場合がある。これを実効ビット数(ENOB)と呼び、実測された信号品質の指標として重要である。

時間軸精度とジッタ

時間軸の精度は、オシロスコープが波形のタイミングをどれだけ正確に捉えられるかを示す。サンプリングクロックの精度やタイムベースの安定度がこの性能に影響する。特に、高速デジタル信号やクロック信号などの測定では、ジッタの影響が無視できない。ジッタとは、タイミングの揺らぎを指し、オシロスコープの時間軸上の測定値にバラツキが出る原因となる。

高精度測定が必要な場合は、ピコ秒単位での時間軸分解能を持ち、ジッタ性能の低い機種を選ぶ必要がある。

周波数帯域と波形忠実度

精度の議論において忘れてはならないのが、帯域幅である。観測する信号に十分な帯域を持たないと、波形が鈍ったり、オーバーシュートやリンギングが抑えられて見えたりする。一般的に、観測したい信号の立ち上がり時間に対して、オシロスコープの帯域は少なくともその5倍程度が必要とされている。

また、帯域が足りない場合、波形の山が潰れて見えたり、ゼロクロスが遅れて観測されたりと、タイミング解析やアイパターン解析にも影響が出る。これらは見た目では判断が難しいため、測定対象に応じた十分な帯域幅の機種選定が必須である。

高精度が求められる場面

以下のような測定環境では、特に高精度のオシロスコープが必要とされる。

微小なセンサ信号の観測
医療・バイオ系などのノイズに敏感なアナログ信号
電源の立ち上がり時間やリップル測定
高速インターフェース(USB、LVDS、HDMIなど)のプロトコル評価
位相差やパルス幅の時間測定

このような用途では、12ビット以上の高分解能、低ジッタ設計、広帯域な測定環境が求められる。必要に応じてアクティブプローブや差動プローブなどの高性能アクセサリとの併用も検討する。

まとめ

オシロスコープの精度は、多くの要因が複雑に絡み合って決まる。単にビット数や帯域を比較するだけでなく、実際の測定環境や対象信号に応じた最適な仕様を見極めることが重要である。高分解能機種の登場により、より細かな解析が可能になっている一方で、精度を正しく引き出すためには、設定やアクセサリの使い方にも注意が必要である。

精度にこだわったオシロスコープの活用は、回路設計や製品開発の信頼性を支える基盤となる。今後も用途に応じた最適な機種選定と、正しい測定手法を理解して使いこなしていきたい。