English  中文站
FlexRay信号観測
- 2025/6/30 -

FlexRay信号観測

FlexRayは、車載ネットワーク向けに開発された高速・高信頼性のシリアル通信規格である。CANに代わる次世代の通信方式として注目され、特にブレーキ制御やステアリング制御など、リアルタイム性が要求される用途で採用が進められてきた。FlexRayは最大10Mbpsの通信速度を持ち、時間同期型(TDMA)とイベント駆動型(動的セグメント)の両方をサポートしていることが特長である。

FlexRayの信号は差動信号で、FlexRayバスには通常2本の線(FlexRay+とFlexRay-)が存在する。物理層はCANと似ているが、より高速な信号変化に対応しているため、信号品質の観測には高速サンプリングかつノイズ耐性に優れた測定器が求められる。

FlexRay信号を観測するためには、差動プローブもしくは2CHの電圧プローブでFlexRay+とFlexRay-を個別に観測し、数学演算で差分を取る方法がある。理想的には、専用の差動プローブを用いることで、共通モードノイズの影響を排除し、きれいな波形が得られる。サンプリングレートは最低でも100MSa/s以上、できれば500MSa/s〜1GSa/s以上が望ましい。

FlexRayの通信スケジュールは事前に定義された固定タイムスロットに基づいており、定周期で同期信号とデータフレームが流れる。これにより、信号の観測においてはまずクラスター全体の同期タイミングを把握することが重要になる。オシロスコープでは、トリガをフレームの先頭に合わせることで、通信サイクルの繰り返しを安定して観測することが可能になる。

FlexRayフレームは、スタートビット、ヘッダー、ペイロード、CRC、トレーラで構成される。オシロスコープ上では、これらの構造を正確に把握するには、プロトコル解析機能付きのモデルを使用するのが効果的である。FlexRayプロトコルに対応したデコード機能を使えば、波形上にIDやデータ内容、CRCエラーの有無などを重ねて表示でき、視認性が大きく向上する。

FlexRayは、時間同期に基づいてネットワーク全体が動作しているため、位相のズレやジッターが発生すると、通信全体に深刻な影響を及ぼすことがある。そのため、波形観測ではエッジの立ち上がり時間、タイミングマージン、グリッチなどを詳細に観察する必要がある。波形を拡大し、時間軸の精度を高く設定することで、これらの要因を把握することが可能となる。

また、FlexRayネットワークに複数のノードが存在する場合、バス上では複数の信号が混在する。そのため、どのノードがどのタイミングで送信しているかを特定するために、ロジックアナライザやマルチチャンネル入力を持つオシロスコープが有効である。これにより、複数の信号を同時に比較し、ノード間の整合性を検証することができる。

FlexRayのような高速差動通信では、信号の終端処理や配線インピーダンスの不整合が原因で、反射やリンギングが発生しやすい。これらの信号品質の問題も、オシロスコープを用いた観測によって把握することができる。可能であれば、Eye Diagram(アイパターン)の表示機能を使い、信号の開口部の広さやノイズの影響を可視化することで、通信の健全性を定量的に評価することができる。

FlexRayの観測は、単なるデータ確認にとどまらず、時間同期、エラー検出、ノード間タイミング、信号品質など、多角的な視点が求められる。オシロスコープの各種機能(プロトコル解析、ヒストリーモード、トレンド測定、周波数分析など)を駆使することで、より深いレベルでのFlexRay評価が可能となる。

FlexRayは一部の車種で既に広く導入されているが、車載ネットワーク全体としては、今後もCAN、LIN、Ethernetとの併用が続くと予想される。そのため、FlexRay単体での解析だけでなく、異なるバスとの信号干渉やタイミングの調整も視野に入れた観測・解析が重要となる。