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車載EthernetとFlexRayの比較
- 2025/6/30 -

車載EthernetとFlexRayの比較

はじめに

自動車の電子制御化が進む中、車載ネットワークに対する要求は年々高度化している。従来のCANやLINに加え、より高速・高信頼な通信方式としてFlexRayや車載Ethernetが注目されてきた。FlexRayは一時期、次世代の標準インフラとして期待されたが、近年ではEthernetの採用が急増している。本稿では、FlexRayと車載Ethernetの違いについて、通信性能、構成、用途、将来性などの観点から整理する。

通信速度と帯域幅の違い

FlexRayは最大10Mbpsの通信速度を持ち、タイムクリティカルな制御に対応するために設計されている。一方、車載Ethernetは100Mbps(100BASE-T1)や1Gbps(1000BASE-T1)といった高速通信を前提とし、膨大なセンサデータや映像伝送に対応できる帯域を持っている。これにより、ADASや自動運転、カメラ・レーダーの統合に必要な大量データをリアルタイムで処理できる。

通信方式と同期制御

FlexRayはタイムトリガ型の通信を採用しており、ネットワーク全体が厳密な時間スケジュールに基づいて動作する。これにより、通信の衝突や遅延が生じにくく、リアルタイム性が求められる車両制御に適している。一方、車載Ethernetはイベントトリガ型で、必要なときに自由に通信できるという柔軟性を持つ。標準的なEthernetと比べて、車載用途ではQoS(Quality of Service)機能やTSN(Time-Sensitive Networking)を導入し、時間制御の精度を高めている。

ネットワーク構成と拡張性

FlexRayはバス型またはスター型の構成を取り、主にECU同士の同期通信に用いられる。構成が固定的で、拡張や再構成には制約がある。車載Ethernetはスイッチを用いたスター型ネットワークが一般的で、柔軟にECUやセンサ、アクチュエータを追加・削除できる。また、IPベースの通信が可能であるため、OTA(Over-the-Air)などの外部接続も容易に実現できる。

信頼性と冗長性

FlexRayはチャネルAとBの2系統による冗長性を持ち、片系障害時でも通信が継続できる設計となっている。これにより、機能安全において高い評価を受けている。車載EthernetもTSN機能によって、通信の遅延やロスを抑えた高信頼通信が可能となってきており、FAKRAやH-MTDなど専用コネクタの導入によって物理的信頼性も確保されつつある。

用途の違い

FlexRayは現在、ステアリングやブレーキ、シャシー系のECU間通信など、時間同期が必要な分野に限られて採用されている。一方で、車載EthernetはADAS、インフォテインメント、診断、カメラ、センサ統合など多岐にわたる分野で採用が進んでおり、次世代の車載インフラとして事実上の標準化が進んでいる。

導入コストと将来性

FlexRayは実装コストが高く、また構成の複雑さや部品点数の多さから、新規車両への採用が減少傾向にある。車載Ethernetはインフラが広く普及しており、部品コストの低下とツールの標準化が進んでいることから、今後の新規開発ではEthernetベースが主流となる見込みである。

まとめ

FlexRayと車載Ethernetは、それぞれの開発思想とターゲットが大きく異なる。リアルタイム制御に特化したFlexRayは一定の役割を果たしたが、現在ではより高帯域・高拡張性を持つ車載Ethernetへの移行が進んでいる。今後の車載ネットワーク設計においては、Ethernetを中核としながらも、既存のCANやLINを補完的に組み合わせるマルチプロトコル構成が主流となるだろう。