オシロスコープの機種選定のポイント
オシロスコープ選定の基本的な考え方
オシロスコープは、電子回路や信号波形を観測・解析するための計測器であり、研究開発から教育、製造現場、フィールド保守まで幅広い場面で使用されている。市場には多種多様なモデルが存在し、性能・価格も千差万別であるため、使用目的に応じた最適な機種を選定することが重要となる。ここでは、オシロスコープ選定時に注目すべき主要なポイントを紹介する。
帯域幅の選定
帯域幅は、オシロスコープが正確に測定できる信号の最高周波数を示す指標である。一般に、測定対象の信号周波数の3倍程度の帯域幅を持つ機種を選定するのが推奨される。例えば、100MHzのクロック信号を観測する場合、帯域幅は最低でも300MHz以上が望ましい。デジタル信号の立ち上がり時間やノイズ成分なども考慮し、余裕を持った帯域設定が必要である。
チャンネル数
必要なチャンネル数は、同時に観測したい信号の数によって決まる。一般的には2chまたは4chのモデルが主流だが、車載ネットワークの解析やパワーエレクトロニクスの三相波形測定など、6chや8chのモデルが必要となるケースもある。将来的な用途拡張を見据えて余裕を持ったチャンネル数を確保しておくとよい。
サンプリングレート
サンプリングレートは、アナログ信号をデジタル化する際の時間分解能に関わる重要な性能指標である。理想的には観測対象の信号周波数の10倍以上のサンプリングレートが必要とされる。例えば100MHzの信号には1GSa/s(ギガサンプル毎秒)以上が推奨される。高サンプリングレートを持つ機種は、高速な信号の詳細な波形を観測する際に力を発揮する。
垂直分解能と分解能ビット数
従来の多くのオシロスコープは8ビットADCを搭載していたが、近年は12ビットや14ビットといった高分解能モデルも登場している。分解能が高いと、微小な電圧変化やノイズ成分をより鮮明に捉えることができる。アナログ信号の評価やセンサ信号の解析、電源リップル測定など、微細な信号変化が重要な場合には高分解能機種が適している。
メモリ長
メモリ長(メモリデプス)は、一度に記録できるサンプル数を示しており、長時間波形の取得や詳細な解析には欠かせない要素である。短いメモリ長では、高サンプリングで取得した波形が途中で切れてしまう場合がある。最低でも数Mポイント、詳細な解析が必要な場合は50M〜1Gポイント程度のメモリ長を持つモデルが望ましい。
トリガ機能の充実度
オシロスコープのトリガ機能は、波形を安定して表示させるための重要な仕組みである。基本的なエッジトリガに加え、パルストリガ、スロープトリガ、シリアルバス(I2C、SPI、CAN、LIN、FlexRayなど)に対応したデコードトリガが搭載されていると、複雑な信号の解析も容易になる。使用目的に応じたトリガ機能の確認は必須である。
表示画面とユーザーインターフェース
画面サイズや解像度、タッチパネルの有無も操作性に大きく影響する。特に教育現場やフィールドでの使用では、直感的に使えるGUIが求められることが多い。また、波形更新レートも重要で、高速更新が可能なモデルは、グリッチや一過性の異常波形の検出に有利である。
拡張性とインターフェース
PC接続用のUSBやLANポート、外部ディスプレイ出力、リモート操作機能、データ出力形式(CSV、画像、波形データなど)など、機種によって対応状況は異なる。計測データの保存・共有や遠隔操作を想定する場合には、これらのインターフェースも重視したい。
用途別の選定例
教育用途
安価で操作が簡単な2chモデル。バッテリー駆動や小型軽量タイプが使いやすい。
電源回路設計・EMI評価
高分解能(12ビット以上)、低ノイズ、高帯域モデル。プロービング精度も重要。
車載ネットワーク解析
6ch〜8ch対応、CAN・LIN・FlexRayデコード、プローブ同時接続の利便性が求められる。
フィールド保守・現場診断
ポータブルタイプ、バッテリー内蔵、耐環境性に優れたモデル。画面視認性も重要。
まとめ
オシロスコープの機種選定は、測定対象や解析目的によって必要な性能や機能が大きく異なる。帯域幅・チャンネル数・サンプリングレートをはじめ、分解能やトリガ機能など多角的に評価し、予算とのバランスをとりながら最適な一台を見極めることが大切である。近年では用途特化型のモデルも増えており、必要な機能を見極めることで、より高効率な計測環境を構築できる。
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