CH別ノイズフィルタ活用法
オシロスコープのフィルタ機能とは何か
多くのデジタル・オシロスコープには、信号の解析を補助するためのフィルタ機能が搭載されている。これらはハードウェアフィルタまたはソフトウェア処理により、特定の周波数帯域を通過または除去することができる。一般的には、ローパスフィルタ(LPF)、ハイパスフィルタ(HPF)、バンドパスフィルタ(BPF)、バンドストップフィルタ(BSF)などが用意されている。CHごとに個別設定が可能な場合は、信号の特性に応じた柔軟なノイズ対策が実現できる。
CH1:電源ラインのリップル除去にローパスフィルタを適用
電源ラインのノイズ観測では、高周波のスイッチングノイズがリップル観測の妨げとなる。CH1にローパスフィルタを設定し、10kHz以下の成分に限定することで、商用電源由来の低周波リップルや電源変動を可視化しやすくなる。これにより、必要な信号だけを抽出し、変動要因の特定に集中できる。
CH2:高周波ノイズだけを観測したい場合はハイパスフィルタ
通信ラインやクロックラインなどでは、ベースバンド信号に加えて高周波ノイズが混入することがある。CH2にハイパスフィルタ(例えば10MHz以上)を設定することで、基礎波形を除去し、重畳しているノイズ成分だけを抽出することができる。これにより、発振、クロストーク、スパイクなどの発生源を追いやすくなる。
CH3:特定周波数帯のノイズを抽出するバンドパスフィルタ
ノイズの周波数が事前にある程度分かっている場合、CH3でバンドパスフィルタを活用すると効果的である。例えば、スイッチング電源の300kHz帯ノイズが問題視されている場合、250kHz~350kHzの範囲を通すよう設定する。これにより、他の成分に邪魔されずに該当ノイズの出現や変化をピンポイントで観測できる。
CH4:干渉波を除去するバンドストップフィルタ
特定の周波数帯域に常時存在するノイズ(例:商用電源ノイズ50Hz/60Hzなど)は、他の重要な信号観測を妨げる要因になる。CH4にバンドストップフィルタを設定し、50Hzまたは60Hz帯域を除外することで、本来観測したいデータ信号に集中できるようになる。電子機器のEMC試験や微小信号の測定時に有効な手法である。
デジタルフィルタと平均化機能の併用でさらなるノイズ低減
フィルタ機能に加えて、「波形平均化(Average)」を適用することで、ランダム性のあるノイズをさらに低減できる。例えば、CH1にローパスフィルタ+波形平均(16回)を適用することで、電源の低周波変動を極めて滑らかな形で確認できる。CHごとの用途に合わせて平均化と組み合わせると、より実用的なノイズ除去が可能になる。
外部ノイズとの相関解析にもフィルタは有効
外部のノイズ源(例:インバータ機器、電動工具など)による影響を解析する際には、ノイズ源をCH1、被害信号をCH2〜CH4で観測し、それぞれに適切なフィルタを適用して波形を比較する。共通のノイズ周波数成分が観測された場合、干渉の因果関係が明確になり、対策方針が立てやすくなる。
CH数が多いほどフィルタ活用の自由度が増す
4CH以上の機種では、CHごとに異なる種類・帯域のフィルタを同時に設定できるため、1回の測定で多角的なノイズ分析が可能となる。CH1は原波形、CH2はLPF適用波形、CH3はHPF、CH4はFFTなどの構成にすることで、フィルタによる信号変化やノイズ成分の抽出状況をリアルタイムで比較できる。
注意点:フィルタ適用後の波形遅延や歪みに留意する
フィルタ処理には、波形の遅延や振幅・位相の歪みが生じることがある。精密な測定が求められる場面では、フィルタ適用後の信号特性を理解した上で解析を進めることが重要である。必要に応じて、フィルタなし波形との比較や補正を行うことで、信頼性の高い測定結果を得ることができる。
まとめ
オシロスコープに搭載されたCH別のフィルタ機能は、ノイズ解析の強力な武器である。ローパスで変動を、ハイパスでスパイクを、バンドパスで狙ったノイズを、バンドストップで不要な周波数を除去することで、波形の観察精度と解析効率が大きく向上する。CHごとに異なるフィルタを設定することで、1回の測定から多面的な情報を得ることが可能になる。ノイズの発生源や伝播経路の特定、対策前後の比較など、幅広い用途に活用できる機能である。
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